新宿区商店会連合会
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「新宿の坂道紀行    理科大の坂   

 東京理科大と英国文化発信地ブリティッシュカウンシルの間の坂道に入ると、明治風の洋風建築が現れる。大学の前身、漱石の「坊ちゃん」が通った東京物理学校の木造校舎を復元した近代科学資料館である。和算の素晴らしい資料も多く、博物館のなかでは独特の地位を獲得している。地味だが一見の価値があるから、坂散歩のついでに覗いてみたい。館長は数学者の山田俊彦教授である。教授によると「フランス人の方が小さいお子さん連れで随分通りますよ。」とおっしゃる。神楽坂は、日本でフランス人の人口密度が一番多いのではないだろうか。坂上で暮らすフランス人にとっては、乳母車や自転車で行き来するのに、この辺では一番緩やかな坂に違いない。フランス人に限らない。若宮町から下ってくる住人にとって、大切な坂道である。坂の左側の若宮公園は、武家屋敷風の低い塀を巡らせている。むかし武家地だった記念だろう。地下は、新宿区の防災緊急品のストックヤードとなっている。この坂は、幅がゆったりしていて車はあまり通らないので、一見広場のように思える。理科大の学生も憩う坂道で、近所の人には「理科大の坂」で通っている。
 坂上には上ってくる人を迎えるようにパルスギャラリーがある。こじんまりした清潔なギャラリーである。オーナーの話では、父君がいろいろ探し回って、この高台に景色の良い場所を見つけ家を建てたそうだ。当時は、きっと坂上のこの家から、外堀やおとなり千代田区の土手の樹木がよく見えたに違いない。
 いまは高い建物で遮られて景色を楽しむことも出来なくなってしまった。風景は財産なのにと残念がる。
 坂上を左に折れると、都会の隠れ家的ホテルとして知る人ぞ知るアグネスホテルがある。さらに進むと、鎌倉時代に源頼朝が奥州征伐の途上に寄ったという歴史の長い若宮神社が現われる。長い間仮神殿だった社も新しくなった。コンクリートの社殿に、黄色い帽子の学校帰りの女の子が立ち止まった。ピョコンとお辞儀をして拍手を叩き、またくるっと踵を返して走って行った。手袋のままのポンポンという温もりのある響きが優しかった。気持ちが和む名前が欲しい無名坂である。

井出のり子

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